人間は動物じゃない

根っこと翼 vol.3

 

 人間が植物ではない、というのは、みなさんすぐに同意できますが、人間が動物ではないというのは、人間をどのように見るか、その視点の取り方によって、意見の分かれるところではないかと思います。そのくらい、人間と動物には共通点が多いとも言えます。

 動物にもいろいろな動物がいますが、昆虫やクラゲなどの無脊椎動物よりは脊椎動物のほうが、魚類や爬虫類よりは哺乳類のほうが、ニホンザルよりは類人猿のほうが、人間との共通点が増えていきますが、いずれにしても、動物は脚やヒレや翼などの身体の一部を使ってある程度自分の思い通りに動くことができるという点が植物とは大きく異なる動物と人間の共通点です。

 しかし、動物と人間には違いもあります。違いの方も数え上げれば枚挙に暇がありませんが、ここではやはり一つのことに注目したいと思います。それは、技術です。例えば、クマやチンパンジーは空を飛ぶことはできません。ペンギンなど水の中を泳ぐことに特化した技能を身に着けた鳥を除き、多くの鳥は空を飛ぶことはできますが、水の中を魚のように自由に泳ぎ回ることはできません。多くの魚は地上を歩き回ることも、空を飛ぶことも自由にはできません。カブトムシは水の中をうまく泳げませんし、蝶は地面をうまく歩けません。動物には、その行動や運動の範囲に、多くの制約があります。そして、もちろん、私たち人間一人ひとりにも、動物と同じく制約があります。超能力でもない限り、一人の人間が空を飛んだり、水中を自由に泳ぎ回ったりすることはできません。

 しかし、人間には技術があります。技術によって、動物がもつ制約を乗り越えることができます。私たち人間が、チーターよりも速く地上を走れるのは、自動車や新幹線という技術のおかげですし、渡り鳥よりも遠くまで空を飛べるのは、飛行機という技術のおかげです。イルカよりも遠くの誰かとコミュニケーションを取れるのは、電話やインターネットという技術のおかげですし、地球上に生きるどんな動物も成し遂げられなかった宇宙空間への飛び越えを支えているのもロケットを初めとした様々な宇宙技術です。

 人間には、動物とは異なり、圧倒的に高度な技術を持っています。この技術によって、動物が乗り越えることのできない(動物はおそらくそもそも乗り越えようとも思っていませんが)さまざまな自然の制約を突破することができました。しかも、そうした技術の多くは、たかだか100年足らずの時間の中で目覚ましい進歩を遂げてきたものです。人間は、動物が持つ制約や限界を次々と超えて、私たちにたくさんの自由をもたらしてくれました。そして文字通り、望めば叶うという夢や希望を、科学技術は私たちにもたらしてくれたのです。人間には翼こそありませんが、技術によって翼以上の自由や希望を手に入れることに成功しました。

(次回に続く)

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