人間は植物じゃない

根っこと翼 vol.2

 この文章を読んでいるあなたは、当たり前ですが人間です。この文章を書いている私も、当たり前ですが人間です。人間は植物ではありません。人間が動物かというのはなかなか難しい問題で、動物とも言えますし、動物でないとも言えます。でも人間が植物ではないというのは、おそらく皆さんが同意できるでしょう。しかし、なぜ同意できるのでしょう。なぜ、人間は植物ではないのでしょう。人間と植物とはどのように違うと私たちは感じているのでしょうか。

 人間は植物ではありませんが、同じ生物ではあります。生物とは何か、というのもウィルスなどのことを考えると実は結構やっかいな問題ではありますが、一応ここでは細かいことは置いておいて、増えたり、成長(生長)したりする能力を持っているものと、しておきましょう。植物も種や胞子などで増えたり、一粒の小さな種から大木へと生長したりする能力を持っていますし、人間も赤ちゃんを産んで命が増えたり、子どもから大人へと成長したりする能力を持っています。この点は植物と人間は同じです。

 違いのほうに注目すると、植物と人間とはいろいろな面で異なりますが、ここでは一つだけ基本的な違いに注目します。それは、植物には「根っこ」があるという点です。そんなの当たり前じゃないかと思われるかと思いますが、この根っこがあるというのは重要です。植物は根っこを生やして植わっているからこそ、動物や人間とは異なり、自由には動き回れません。例えば、山火事が起こって危険にさらされても、動物や人間であれば脚や翼を動かして危険を避けることができますが、植物は根っこがあって動けませんから山火事の広がりと運命をともにしなければなりません。

 しかし、その一方で、植物は大地に根っこをしっかりと張っているからこそ、多少の水や風の流れにも耐え、自らを一定の状態に保つことができます。例えば、砂や小さな石は風や水の流れに任せきりですが、植物は根を張ることによって、風や水の流れに抗って、とどまり続けることができます。「根っこ」をもつということは、自然の流れに対する植物なりの抗い方の一つです。自然の流れに抗って自分らしい葉なり枝なり花なり種・実なりをうまく育てるために、植物は根を張ります。植物は砂や小石と違って自分だけのオリジナルの葉や花の育ちを安定させるために大地にしっかりと根を張るのです。私たちが、深い森や神社などにそびえ立つ大きな樹を見て落ち着いた気持ちになるのは、大きな樹々が私たち人間や砂や小石のようにフラフラと動き回らず、長い歳月を経て様々な自然の変化を経験しても大地にどっしりと根を下ろし堂々と安定している様子に触れて、私たちが無意識に悠久の落ち着きを感じ取っているからでしょう。植物は根を張ることによって、風や水などの自然の動きに抗いつつ、自分だけの生長をじっくりと落ち着いて支えています。

(次回に続く)

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