今にとどまる三つの方法

不安について考えよう(9)

 不安に対抗する二つ目の手段は、「今にとどまる」でした。具体的にどうすればよいか、話を進めていきましょう。

 まず、「今の自分の身体にとどまる」です。これは、今の自分の身体の心地よい状態に集中するということです。一番手軽でお勧めなのは、呼吸に集中するという方法です。昨年映画が大ヒットした「鬼滅の刃」でもおなじみの呼吸への集中です。寝転んでも、座っても、立ってでもよいです。自分が一番楽な姿勢になって、静かな場所で目を閉じて、ただただ呼吸に集中し、ひとつ、ふたつと呼吸を数えます。やってみるとわかりますが、簡単なようでこれが結構難しいのです。すぐにあれこれ日常の考え事や悩み事などが頭を過って呼吸を数えていられなくなります。わたしたちがただ今の呼吸を数え上げるということさえままならないくらい、未来や過去の「すべきこと」「してしまったこと」などにとらわれていることがわかります。あれこれ考えが浮かぶのは仕方がないので、それもそのままにしながら、時々思い出しては呼吸に戻る、そんなことを繰り返してみてください。うまくいけば、不安がすっとなくなる瞬間があります。うまくいかないこともありますが、毎日数分だけでも繰り返すと、1ヶ月後くらいには結構上手になってきたりもします。鬼殺隊たちと同じくそれなりの修行が必要です。

 次の「今にとどまる」方法は、「今の身近な人とのつながりにとどまる」です。安心できる家族や信頼できる友達と、他愛もない雑談をしましょう。無理に自分を着飾ったり、つくろったりするような相手ではなく、ただ自分のありのままを受入れてくれるような人たちとのつながりの中にいると、人はゆったりした気持ちになり、小さな不安はどこかに消えて行きます。家族や恋人などより近い関係の場合には、スキンシップも大切です。愛おしい、かわいい、大好きだと心底思う心情を強く感じ合った時に、相手の腕の中に飛び込んだり、相手を抱きしめたりしてみると良いでしょう。その温度をともに感じ合うだけで、わたしたちの心はじんわりと安らぎます。だからと言って、無理やりのスキンシップは逆効果です。自分や相手の不安が強過ぎる時には、スキンシップが逆に不快感や恐怖を呼び起こすこともあります。そんな副作用もよく知っておく必要があります。

 最後の「今にとどまる」方法は、「今の自然にとどまる」です。外に出たり、家の窓の近くに行ったりして、できる限り遠くを眺めましょう。できるだけ遠く、遠く。空には雲が流れています。雲がいろんな形になります。おいしそうなパンの形、間抜けなワニの形、やわらかそうなシロクマの形…、雲の形の移ろいをただ眺めます。山でも川でも町並みでも構いません。遠くにただあるだけの今の自然が、ただただいろいろなものやことに影響を受けたり与えたりして姿や形を変えながら、それでも今そこに、この瞬間瞬間にあり続けることを眺めてみてください。不安が落ち着くこともあるかもしれません。

(次回に続く)

コメント

タイトルとURLをコピーしました