今にとどまる

不安について考えよう(8)

 不安に対抗する第一の手段は、共感でした。重大な副作用もありますが、効果のある薬ほど副作用も大きいものです。副作用に十分心を配りながら、信頼できる誰かの共感を得られたなら、心のなかの不安の暴走はおさまり、少しずつ落ち着いてくることでしょう。

 さて、今回は不安に対抗するもう一つの手段をお伝えします。こちらの方法も、前回の共感と同様、何も目新しいことはなく、いろいろなところで紹介されているものですし、おそらく不安に対処できている多くの方が意識的、無意識的に実際に日常生活のなかでとっている方法でもあります。それは、「今にとどまる」という方法です。

 不安がなぜ生じるのかをもう一度思い出してみましょう。不安は、恐怖とは異なり、まだ直接には感覚していないものを先取りしたときに生じる感情なのでした。つまり、未来を先取りしているのです。わたしたちが、コロナの流行に不安を感じるのは、自分や身近な人がコロナに感染してしまったら…、感染して周囲からひどい扱いを受けてしまったら…という少し先の暗い未来を先取りしているからです。暗い未来の先取りは、さらなる暗い未来を呼び寄せます。例えば、コロナに感染して家族が仕事できなくなったら…、家計がひっ迫して生活できなくなってしまったら…などなど。先取りした暗い未来はどこまで行っても「未だ来ない」ものなので、際限なく雪だるま式に不安が膨れ上がる宿命にあります。

 そしてもう一つ重要な点は、その暗い未来の先取りの根拠はたいていの場合過去にあるという点です。マスメディアなどを通じて、コロナ感染で有名人が亡くなったという報道がなされたり、コロナの影響で経済が深刻なダメージを受けたという報道がなされたりすると、そうしたどこかの誰かに訪れた過去の出来事が、自分の少し先の未来にも訪れるかもしれないという感覚が強く湧いてきます。本来、未来は誰にもわからないものにもかかわらず、こうしたメディアの情報に多く接するほどに、過去の誰かの出来事が未来の自分にも生じるだろうという確信が強く心に迫ってくるのです。つまり、心の中に不安がいっぱいになっている時には、過去と未来に完全にとらわれているわけです。しかもそれは、暗い暗い過去と未来に。

 この状態から抜け出すためには、過去でも未来でもなく、「今にとどまる」ことが大切です。ただ、今にとどまるって、いったいどういうことなのでしょう。具体的には何をすれば、今にとどまっていることになるのでしょう。今にとどまる方法には大きく分けて3つあります。一つ目は、「今の自分の身体にとどまる」、二つ目は、「今の身近な人とのつながりにとどまる」、三つ目は、「今の自然にとどまる」の3つです。次回、それぞれ具体的にどのようにするのかについて見ていくことにしましょう。

(次回に続く)

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