かすかな希望、ささやかな安らぎ

不安について考えよう(10)

 不安に対抗するための「今にとどまる」の具体的な方法をご紹介してきました。実はこれらの方法はいずれも、人間以外の動物が得意な方法であることに気づかれた方はいらっしゃるでしょうか。動物は常に今を生きています。彼らはたえず、今の、直接の、呼吸や欲求や自然にとどまり続けています。緊張し過ぎて呼吸が乱れたら休んでくつろぎ、はしゃぎたくなったらはしゃぎ回り、日没とともに眠りにつきます。

 人間は、今の、直接の出来事や状態から、離れていく能力を身につけました。この能力のおかげで、今目の前では見ることも聴くことも感じることもできない何かを想像するという能力をわたしたちは手に入れたのでした。そしてその想像が、スポーツ選手を夢見る子どもたちのように、わたしたちにとって良きものであればあるほど、それは「希望」となるでしょう。しかし、その想像が、わたしたちにとって悪いものであればあるほど、それは「不安」に変わってしまうのでした。ですから、現在のように世の中全体が「不安」に覆いつくされている時には、できるだけ今感じられる、直接触れられるもの、感じられるものに意識を向けていって、想像が必要以上に広がり過ぎないようにする工夫が必要です。それは、本来動物が持っている智慧(ちえ)に還るということなのかもしれません。その意味で現在のこのコロナの大流行は、わたしたち人間もまた身体を持った動物であることを思い出させているということなのかもしれません。

 その一方で、わたしたちはやはり人間です。人間らしい「不安」への対処の方法もあるように思います。それは、目の前の不安を超え、さらなる想像を広げていくという方法です。今にとどまりながらも、さらにずっと先の遠い未来に「希望」を抱くという方法です。もちろん何事もいいとこ取りはできず、必ず副作用があります。以前ご紹介した希望が不安を増幅させてしまうように、「アフター・コロナ」を今現在の状況から離れてポジティブに思い描き過ぎると、現状の絶望的な状況とのギャップをさらに浮き彫りにして、反動で苦しんでしまうという副作用もあるかもしれません。しかし、現在がどんなにつらくても、どんなに苦しくても、どんなに不安でいっぱいでも、これが永続するわけではなく、いつかきっと新しい良き状況が生まれてくるという、かすかな希望を持ち続け、今のささやかな安らぎにとどまりながら、未来を切り拓く歩みや取り組みを続けられるのなら、それこそが、動物とはまた違う、人間らしい「不安」の乗り越え方と言えるのかもしれません。

(終わり)

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